レポート


2014年6月24日 卒業生交流会 Vol.7 講座レポート

ゲスト 清塚信也さん(ピアニスト)

ピアニストとしての演奏、録音活動はもとより、ラジオやテレビ、 映画や執筆などでも近年さらに注目を浴びている本学(高校)卒業生、 清塚信也さんが6月、あの集中豪雨と雹(ヒョウ)のすさまじかった日の夕刻に来校しました。多彩な活動の経験談、後輩へのアドバイスがぎっしり詰まったトークのごく一部をここにご紹介します。


音楽家って、とてもあやふやな職業ですよね。お金とか、生活というものとのつながりが極端に見えにくい。 目の前の目標しか考えないというのが、音大生の弱点です。まず危機感がないんです。

音楽家というのは人気稼業。だからどうやったら人気が出るか、真剣に考える必要があります。これは、普通の企業なら当たり前なことですよね。例えば、渋谷の交差点を歩く人たちに、自分の音楽を分かってもらえるか、考えたことがありますか?演奏だけでなく、「人となり」を伝えるのが音楽家です。 桐朋にいたとき、皆が試験の成績ばっかりを気にしていることに、とっても違和感を感じていました。卒業したら自分がどうなるか、誰も考えていないんです。

音楽学校って、研究所みたいなところで、探求することは出来ても、製品を売る能力に乏しい人間がたくさん創出されています。ぼくは、高校を出たあとロシアに留学して、二年で帰ってきたときに、本当に何も仕事がなかった。 こうなったら、直談判です。若いから許されるという特権を使って、もう座り込みです。僕はずっと映画や演劇が大好きで、そういう仕事と関わりたいと思って、関係のありそうないろんな人に「ピアノ要りませんか?」とひたすら訊きました。それで最初にもらった仕事が、今では有名になった松山ケンイチが音大浪人生を演じた映画の、ふきかえ演奏と、演奏指導。映画のタイトルは「神童」というんだけど、神童は主人公のほうで、僕はおちこぼれのピアニストの演奏を吹き替えしました。ベートーヴェン「熱情」ソナタの終楽章、一回ちゃんと弾けるようになったあとに、一般の人から見ても明らかに「下手に」弾けるようにするのが一苦労でした。

そして、その後「のだめカンタービレ」の仕事が来ました。考えてみて欲しいんだけど、音楽の世界にいなければ、ピアニストってどこに居るのか分からないし、すごく遠い存在です。だから、ピアニストを必死に探している人もいます。フリーでやっているピアニストに声をかけるとしたら、それは経験が少しでもある人に頼むことになります。勝手が分かった人のほうがいいに決まっているからね。

演技は、ピアノと同じように集中力が必要で、台本がちゃんと頭に入っていないと台詞は言えないところも、音楽演奏と同じです。ただ、音楽のようにさらいこんで、全部やり方を決めてしまうと困ることが多いです。撮影の現場では、ありとあらゆる専門職(監督、カメラ、照明、マイク、そして共演者)が一緒にワンシーンに取り組んでいて、その場で変わることだらけです。本当に二回同じことは起きない、ジャズ・セッションのようなものです。 世の中、録音技術が発展して加工品だらけになっていますよね。だから、僕はこれからがライヴの時代だと思っています。


ADVICE #1 名曲は全部弾けるようにしよう! 世の中の人が聴きたがっているのは、いわゆる「名曲」です。ショパンの「別れの曲」が、コンクールや学校の試験の課題になったりすることはまずないから、弾けないひとも結構いるんじゃないかな?でも、世の中では「ピアニストなのに別れの曲が弾けないの?!」と驚かれます。

ADVICE #2 オリジナリティーを持とう 同じ席をねらった椅子取りゲームをしないで、自分の椅子がどこかも考えたほうがいい。僕は「便利屋」として、ラテン、ブルース、ポップスなどが出来るように勉強しました。ピアニストとしての窓口はたくさんあるんですよ。そのためには、まずコード譜が読めるといい。アレンジしたものを弾く場合、作曲家がいちいち音符に起こす時間がなくて、コードネームで譜面をもらうことが殆どです。

それから、自分でアレンジを出来るようになったり、「ソロ回し」といういわゆる間奏を入れたりするテクニックもあったらいいですね。クラッシックで育った僕らに一番難しいのは、ポップスでのテンポキープです。繊細な部分や、フレーズのおしまいで、自然と遅くなるのが普通なんだけど、これを大きい編成のバンドや、お互いが遠いステージでやってしまったりすると、たちまち他の人とずれます。ヘッドフォンでクリック音(メトロノーム)を聞きながら、徹底的にそれに合わせられるようにするのは実は本当に苦労します。クラッシックのフレーズ感とは真反対だから、もう「先生ごめんなさい!」っていう感じです。

ADVICE #3 舞台からのトークは、きちんとしよう クラッシックの人たちの舞台トーク、本当にまずいことが多いです。かまないで、はっきり、というのは基本です。大体、特に女性は早口ですね。クラッシックの会場は音響が良いから、マイク音が響きすぎて、早いと何を言っているのかわかりません。それから、ちゃんと内容を筋の通ったものにすることも大事ですよ。舞台上で、自分たちにしか分からない「内輪受け」みたいな話されても、聞くほうはかえって迷惑で、「早く弾かないかなあ」と実は思ってたりします。ちゃんと客の身になって、内容を考えてのぞんでください。

最後に・・・ 世の中、録音技術が発展して加工品だらけになっていますよね。だから、僕はこれからがライヴの時代だと思っています。

お話しのあと、「じゃ、ピアノ弾こうか。」と弾いてくださった、自身の編曲による「ラプソディー・イン・ブルー」の演奏に、雷雨でエアコンが切れていることも忘れて、333室に集まった大勢の在校生が聴き入っていました。また終了後も、学生生徒たちと長いこと話してくださいました。

お忙しい中、本当にありがとうございました!


文責 大島路子 (キャリア支援センター)